レポート | アート&プロジェクトマネジメント公開講座
「先進的な芸術祭に学ぶ。芸術祭のモデルはいかにアップデートできるか」

日本各地で多くの芸術祭が開催される今日、各芸術祭はどのように企画され、運営されているのでしょうか。NINE LLPが主催するアート&プロジェクトマネジメント講座では、10月4日、パノラマティクス主宰の齋藤精一氏を特別講師に迎え公開講座を行いました。齋藤氏が考える、今求められる芸術祭の姿、そして役割とは?

特別講義

芸術祭は地域の中で新たな役割を担っていく

齋藤氏は、2019年から神奈川県横須賀市の猿島で開催されてきた「Sense Island – 感覚の島-」と奈良県で2020年にスタートした「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」をプロデュースし、多くのアートプロジェクトを推進してきました。その活動を通して貫かれているのは、芸術祭における「地域」の位置付け。地域での関係づくりを重視し、芸術祭が1つのメディアとなり、機能として地域の中に入り込んでいくことを、目指しています。
その多岐にわたる活動のきっかけは「コロナ禍以前から芸術祭やアートが、テクノロジーなどで加速されていくことによって、人々から遠ざかってしまっていると感じていた」という言葉からはじまったトークでは、コロナ禍での外出自粛要請と、それに伴う行動の変化を受け、自分自身が新しいメディアとしての芸術祭を作りたいと考えるようになったことだったと話されていました。

コロナ禍をきっかけに生まれた芸術祭

齋藤氏が抱く、芸術祭への想いと呼応するようにスタートしたのが奈良県奥大和地域での「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」。パンデミックによって観光収入を失った地域の観光復興の一環として始まった本芸術祭は、コロナをきっかけとした人々の行動変容に着目し、桜で有名な奥大和の拠点にスポットライトを当て、そこにあるものそのものに目を向けていくことが目指されました。
国立公園での開催には、プログラムの実施だけでなく、作品制作の段階から制限がかかることも多かったといいます。しかし、地元の環境省担当者の方との対話を重ねて、制限がある中でもチャレンジができる協力体制を築き上げました。また、参加したアーティスト自身が表現したいこと以上に、奥大和の土地で自然を活かす作品制作を依頼するメッセージを発信し、地域の特性を活かすビジョンを共有してきたそうです。

MIND TRAILの3年間とその先

では、2023年に4年目を迎えるMIND TRAILは地域のなかでどのように変化してきたのでしょうか。齋藤氏から、一年ごとに少しずつアップデートされてきた芸術祭の姿が語られました。
3ヶ月という短い準備期間でありながらも、地域のステークホルダーとの強力な協力体制によってスタートを切った1年目を経て、2年目からは3エリアそれぞれのキュレーターに加えて、全てのエリアを横断するエリア横断キュレーターを設置することで、エリアごとの特色と、地域全体をおおう形で芸術祭の設計が行われました。また、芸術祭のための共創委員会には、観光協会や旅行組合の人々が参加し、芸術祭に関連したグッズやツアーの実施体制が作られました。外部からやってくるアーティストだけでなく、地元の人が芸術祭にかかわっていくことのできる設計が、地域で芸術祭を自走させていくことができるための土台に繋がっています。

3年目に入った2022年には、芸術祭を毎年開催をしながら更新をしていくためにテーマが設けられるようになりました。2022年は、環境との会話・自分自身との会話・地域内の会話、そして地域同士の会話を示す “Conversation/対話するということ”とおき、2023年は“Competency/人が集まり力となる”をテーマとしています。
4年目に入ったMIND TRAILは、吉野以外の2つのエリアが変更され、芸術祭という場所がアートを見せるのではなく、地域を強くし、経済効果を強くするものを目指します。

「作品の制作段階から、外部からきたアーティストと地域の人々がぶつかり合い、強くなっていく。芸術祭を通して、山とそこに携わる人々の関係・繋がりをアップデートしていくことが現在すでに始まっている」と語る齋藤氏。

初期は、観光や地域産業振興を軸とした芸術祭が目指されてきましたが、2023年からは地域課題や産業課題の解決に向けて、芸術祭そのものを通して具体的なアクションを起こしていくものへと変化してきているそうです。

対談「芸術祭のアップデート」

第二部は、アート&プロジェクトマネジメント講座の監修を務める南條史生氏との対談。

 南條氏からは早速、齋藤氏の手がける芸術祭の特色について「多くの芸術祭は、テーマが設定され、そのテーマに沿った作品が展示されているものの、齋藤氏の芸術祭ではそうした印象がない。」とのコメントがありました。
それに対し、齋藤氏からは「自身の芸術祭と地域を主体とした芸術祭である」、「アーティストの個性や作品が主体となるのではなくて、地域の中にアーティストが入っていき、その地域の文脈のなかでアーティストに作品を作って欲しいという考えがその背景にある」と。 また、「どうすれば芸術祭をアップデートしていくことができるか」という、対談テーマでもある南條氏からの質問に対し、齋藤氏は「誰に何を見せるか」を常にリセットしていくことで芸術祭をアップデートしてきている、と答えます。芸術祭を通して残るものが、「地域」そのものであることが良いと考えているとも語られました。

その考えは、MIND TRAILの元となった、神奈川県横須賀市で実施される「Sense Island – 感覚の島-」の今年の動きにも繋がっています。Sense Islandでは、エンターテイメントとしての芸術祭ではなく、その土地との繋がり、文脈を作っていけることを目指して体験設計が行われてきました。コロナ禍での中止を挟んで4年目となるSesns Islandは、芸術祭としての独自性と地域との新たな可能性を導き出すため、今年は芸術祭を開催するのではなく、地域のリサーチに時間をかけることになったそうです。これまでのメイン会場である猿島から横須賀市内にも人が流れ、今後の実施に向けて広いエリアで人々を巻き込んでいくことができるよう設計が進められています。

トークのなかでは「芸術祭は、地域に溶けてなくなればいい」との見解の提示もありました。これは芸術祭が地域にとっての新たな役割をになったその先を表現する齋藤氏ならではの言葉です。芸術祭が人々、そしてコミュニティの中に入り込んでいくことが、新たな機能として溶け込んでいく。そのために実施する目的や目指す形を小さなチームで解像度を高く持ちながらプロジェクトマネジメントをしていること、その重要性や必要性を、熱く語っていただきました。

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